日本の半導体復活を担うラピダスとは?2nm技術と国産化への挑戦

王宮での小さくて大きな疑問
ふわふわ星の王宮は、今日も平和そのもの。 ニンジンとイチゴでできた玉座にどっしりと構えるのは、この星の王、T。その足元では、プリンセスのCが干し草をもしゃもしゃと食べながら、ぴょんぴょん跳ねていた。
C:「ねーねー、T! あたちのニンジン、昨日より甘くておいしい!」
T:「うむ。星の土壌管理は完璧じゃからな。それよりCよ、お主が今いじっておる、人間たちが使う『スマートフォン』という板。なぜあんなに小さくて薄いのに、歌ったり絵が動いたりするかわかるか?」
C:「えーっとね、中にちっちゃい人間さんがいっぱいいるから!」
T:「はっはっは。相変わらず元気な答えじゃ。よかろう、今日は将来王女となるお主に、その板の秘密…ひいては世界の経済を動かす『半導体』というものについて、朕が直々に教えてやろう」
Cは「はんどうたい?」と首をかしげた。その口の周りには、まだ干し草がたくさんついている。

「半導体」って、一体なにもの?
T:「Cよ、半導体とはな、『産業のコメ』と呼ばれるほど重要なものなのじゃ。電気を通したり通さなかったり、その量をコントロールできる魔法の石のようなもの、とでも思っておくとよい」
C:「魔法の石! きれいなの?」
T:「見た目は地味じゃがな。じゃが、その働きは絶大じゃ。お主の好きなゲーム機、キッチンにある冷蔵庫、空飛ぶ飛行機まで、現代社会で電気を使うもののほとんどに、この『脳みそ』が入っておる。これがなければ、我らの生活は100年前に逆戻りじゃ」
Cは目を丸くして、自分の右手(そこだけ白い)とスマホを交互に見比べた。
C:「そんなに大事なものなんだ! じゃあ、その魔法の石ってどこで作ってるの?」
T:「良い質問じゃ。半導体作りは、いわば国をまたいだ壮大な駅伝のようなもの。設計はアメリカが得意、作る(製造)のは台湾の『TSMC』という会社が王様、そして韓国の『サムスン』も強い。それぞれが自分の得意分野を担当する『サプライチェーン』という仕組みで、ようやく一つの半導体ができるのじゃ」
C:「へぇ~、みんなで協力してるんだね! なかよしさんなんだ!」
T:「うむ…なかよし、と言えればよいのじゃがな。この半導体はあまりに重要すぎるため、今や『経済安全保障』の要。つまり、『自国で半導体を確保できなければ、国の力が弱まってしまう』と、どの国も必死なのじゃ。だから時に協力し、時に激しく火花を散らす。まさに世界の覇権をかけた戦いの中心にあるのが半導体なのじゃよ」

日本の栄光と挫折
C:「ねぇT、日本は駅伝に参加してないの? あたちの体みたいに、日本も茶色なの?」
T:「ふふ、面白いことを言う。実はなCよ、日本は昔、この駅伝で金メダルを獲りまくったスター選手じゃった。1980年代には『日の丸半導体』と呼ばれ、世界の半分以上のシェアを誇っておったのじゃ」
C:「ええーっ! 日本すごーい! なのに、なんで今は台湾とかが王様なの?」
Tは少しだけ遠い目をして、イチゴを一つ口に放り込んだ。
T:「…様々な理由がある。一番大きかったのは、アメリカとの貿易摩擦じゃな。強くなりすぎた日本が、アメリカに少し睨まれてしまった。そこから日本の勢いは少しずつ落ちていき、韓国や台湾といった新しい選手たちが猛烈な勢いで追い抜いていったのじゃ」
C:「そっか…なんだか悲しいお話だね…」
T:「だが、しょげるのは早いぞ、C。日本は完全に駅伝から降りたわけではない。実は、半導体を作るための『素材』(シリコンウェハーなど)や、半導体を加工するための超精密な『製造装置』の分野では、今でも日本がいないと世界中が困るほどの圧倒的な強さを持っておる。縁の下の力持ちとして、駅伝チームを支える重要な役割を担っておるのじゃ」
復活の切り札「ラピダス」
C:「そっか! 日本はまだ頑張ってるんだね! よかったー!」
T:「うむ。そして、ここからが今日の本題じゃ。その日本が、再び駅伝のエースになるべく、国家の一大プロジェクトを始動させた。それが『Rapidus(ラピダス)』じゃ!」
Tの言葉に、Cもぴょんっと一回大きくジャンプした。
C:「らぴだす! なんだか速そうな名前!」
T:「その通り! ラテン語で『速い』という意味じゃ。このラピダスには、トヨタ、ソニー、NTTといった日本のトップ企業たちが集結しておる。いわば、日本のオールスターチームじゃな。その目的はただ一つ、これまで外国に頼っていた最先端の半導体を、もう一度日本で作ること。『次世代半導体の国産化』じゃ!」
C:「オールスター! かっこいい! どんなすごいの作るの?」
T:「ラピダスが目指すのは『2ナノメートル』の半導体じゃ。ナノ、という単位がつくものは、とてつもなく小さい。お主のそのふわふわの毛の太さの、さらに5万分の1じゃ」
C:「ご、ごまんぶんのいち!? もう見えないよぉ!」
T:「そうじゃ。その極小の世界に、これまで以上の数の脳みそを詰め込むことで、AIの計算などがもっと速く、もっと省エネになる。これを自国で作れるかどうかは、国の未来を左右する。だからこそ、日本政府も何千億円という巨額の補助金を出して、ラピダスを全力で応援しておるのじゃ」
C:「がんばれー!ラピダスー!」
T:「しかし、道は平坦ではない。世界の王者TSMCやサムスンも、さらにその先を目指して開発を進めておる。ラピダスが勝つためには、世界中から優秀な技術者を集め、莫大なお金を投資し続けねばならん。まさに、日本の未来をかけた大きな挑戦なのじゃ」
投資家うさぎの視点
T:「…さて、Cよ。我ら王族は、星を豊かにする投資家としての視点も持たねばならん」
Tは急に威厳のある声色になり、Cはびっくりして干し草を食べるのをやめた。
C:「と、とうしか?」
T:「うむ。今、世界中でAIがブームになっておるじゃろう。そのAIを動かすためには、超高性能な半導体が不可欠。だから、半導体関連の会社の株はとても人気なのじゃ。今後も、自動運転やメタバースなど、新しい技術が生まれれば生まれるほど、半導体の需要は増え続けるじゃろうな」
C:「じゃあ、あたちもラピダスさんの株を買う! おこづかいのリンゴで買える?」
T:「残念ながら、ラピダスはまだ上場しておらんから株は買えん。じゃが、先ほど話した『日本の隠れた強み』…つまり、ラピダスに素材や装置を供給する日本の会社に注目するのは面白いかもしれん。もちろん、半導体業界は技術の進化が速く、競争も激しい。どの会社が勝ち続けるかを見極めるのは、朕のような王でも難しい。投資とは、常にリスクを理解した上で行うものじゃと、心に刻んでおくのじゃぞ」
T:「…さて、Cよ。今日の講義はどうじゃったかな?」
C:「うん! わかったよ! はんどうたいって、ちっちゃいけど、スマホで動画見たりゲームしたりするのにすっごく大事な『脳みそ』ってことだよね! 日本は昔すごかったけど一回お休みしてて、でも『らぴだす』っていうオールスターチームで、ふわふわの毛よりずーっとちっちゃいので復活を目指してるんだ! がんばえニッポン!」
T:「うむ。まあ、第一歩としては上出来じゃな。よく学び、よく食べることじゃ」
そう言ってTが差し出した大きなイチゴを、Cは嬉しそうに受け取った。 ふわふわ星の王宮から見る地球(ニッポン)の未来は、ほんの少しだけ、明るく見えた気がした。

ナレーターの用語解説
- 半導体: 電気をよく通す「導体」と、ほとんど通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ物質。電気の流れを細かく制御できるため、電子機器の頭脳として中心的な役割を担っています。
- ラピダス (Rapidus): トヨタやソニーなど日本企業8社が出資して設立された、次世代半導体の国産化を目指す会社。2027年頃に2ナノメートル世代の半導体の量産を目指しています。
- サプライチェーン: 製品が原材料の段階から、製造、加工、流通を経て消費者の元に届くまでの連鎖的な流れのこと。半導体業界は特にこの流れが国際的に複雑なことで知られます。
- 2ナノメートル (2nm): 半導体の回路線幅の細かさを示す単位。1ナノメートルは10億分の1メートル。この数字が小さいほど、より高性能で省電力な半導体を作ることができます。
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