ブラケットクリープとは?インフレ時代の“静かなる増税”

ブラケットクリープとは?インフレ時代の“静かなる増税”

ここは宇宙のどこかにある、すべてがフワフワな惑星「ふわふわ星」。この星の玉座では、偉大なる王「T」が、愛娘でありプリンセスの「C」に、何やら難しい顔で見つめられていました。

ニンジンが増えないのは、なぜ?

C:「ねぇ、パパ…いえ、朕よ」

T:「どうしたCよ。朕はここにいるぞ。しかし、朕はパパではない。王である」

C:「あたち、この前パパ…じゃなくて、朕からもらったお給料が増えたのに、買えるりんごの数が変わらないの!むしろ、前より買えなくなった気がする!くすん…これじゃあ、干し草も買えないよぉ」

T:「ふむ。Cよ、それはな、お前が知らないうちに『静かなる増税』の魔法にかかっているからなのじゃ」

C:「ま、まほう!?あたち、呪われちゃったの!?ひぃん、こわい!おしっこ漏れちゃう〜!」

T:「漏らすでない、プリンセス。これは魔法ではない。地球の“日本”という国でも今、多くの民が首をかしげている経済現象じゃ。よし、将来この星を継ぐお前のために、朕が直々に教えてやろう。今日のテーマは『ブラケットクリープ』じゃ!」

C:「ぶらけっと…くりーぷ…?なぁに、それ?おいしいの?」

T:「ニンジンでもイチゴでもないぞ。だが、これを知らないと、お前は一生懸命働いても、いつまでたってもニンジンもイチゴもりんごも、お腹いっぱい食べられなくなるかもしれんのじゃ」

C:「えぇーっ!それは困る!あたち、知りたい!」

T:「うむ、それでこそ朕の子。心して聞くのじゃぞ」

税金の階段と“見えない”増税

T:「まず、日本という国には『累進課税(るいしんかぜい)』という仕組みがある。これはな、ニンジンをたくさん稼ぐウサギほど、たくさんのニンジンを税として納める、というルールじゃ」

C:「いっぱい稼ぐウサギさんは、えらいからたくさん払うのね!」

T:「うむ。そして、その税率には階段のような区切りがあってな。これを『所得のブラケット』と呼ぶ。例えば、こういう感じじゃ」


  • 稼ぎが195万ニンジンまで → 税率5%
  • 195万~330万ニンジン → 税率10%
  • 330万~695万ニンジン → 税率20%

T:「稼ぎが増えて、上の階段(ブラケット)に足を乗せると、そのぶん高い税率がかかるようになる。Cよ、ここまでは分かるか?」

C:「うん!階段をのぼると、景色がよくなる代わりに、たくさん税金を払うのね!」

T:「その通りじゃ!さて、ここからが本番じゃぞ。最近、世の中は『インフレ』といって、物の値段がどんどん上がっておる。りんごや干し草が値上がりするから、民の給料も少しずつ上げてやらねばならん」

C:「わーい!お給料アップ!」

T:「だが、ここに罠がある。例えば、年収400万ニンジンのウサギがいたとしよう。インフレに合わせて、会社が給料を10%上げて、440万ニンジンにしてくれた。このウサギ、豊かになったと思うか?」

C:「もちろんだよ!40万ニンジンも増えたんだもん!りんごがいっぱい買える!」

T:「ところが、そうではないのじゃ。ここに『ブラケットクリープ』が忍び寄ってくる…!」

“ブラケットクリープ”の恐るべき正体

T:「よく聞け、Cよ。給料が400万から440万に上がったことで、このウサギは税金の階段を一つ登ってしまったのじゃ。つまり、より高い税率が適用される部分が増えてしまう!」

C:「えっ!?どういうこと!?」

T:「給料は10%しか上がっていないのに、払う税金は10%以上増えてしまう。さらに、世の中の物の値段も上がっている。結果、どうなるか?」

C:「お給料は増えたのに、税金もいっぱい取られて、りんごも値上がりしてるから…あれ?前より買えるものが…少ない…?」

T:「その通り!それこそがブラケットクリープの正体!実質的な手取り(購買力)は増えるどころか、むしろ減ってしまう現象。政府は新しい法律を作ったわけでもなく、税率を上げたわけでもない。ただインフレに合わせて給料が上がっただけなのに、国民は“見えないうち”に“静かに”増税されていることになる。だから『静かなる増税』と呼ばれるのじゃ」

C:「ひどい!そんなのずるいよ!あたち、なんだか悲しくなってきちゃった…うぅ…またおしっこが…」

T:「こらえよ、プリンセス!王たる者は、感情で事を判断してはならん。この現象が続くと、国全体がどうなるか、考えてみるのじゃ」

C:「うーん…みんな、お給料が上がっても嬉しくないから、お買い物をしなくなる?」

T:「そうじゃな。消費が冷え込み、企業の儲けが減り、さらなる給料アップも見込めなくなる。民の働く意欲も削がれ、国全体の元気がなくなってしまうという、恐ろしい事態を招きかねんのじゃ」

C:「ふわふわ星が、しょんぼり星になっちゃう…!ヤダヤダ!」

自分の“ニンジン”は自分で守る時代へ

T:「では、どうすればいいのか。本来であれば、国が対策をすべきなのじゃ。『定額減税』のような一時的なお小遣いを配るだけでは、根本的な解決にはならん」

C:「じゃあ、どうするの?」

T:「海外の進んだ国々ではな、『インフレ・スライド制』というのを導入しておる。これは、インフレで物価が上がった分だけ、税金の階段(ブラケット)の幅も自動的に広げる仕組みじゃ。そうすれば、給料が上がっても、すぐに上の階段に登ってしまうことはなくなる」

C:「へぇー!賢いんだね!なんで日本はそれをしないの?」

T:「…それは、朕にも分からん。もしかしたら、黙っていても税収が増えるから、なのかもしれんな。だが、我々王族は、民の生活を守るのが仕事じゃ」

C:「うん!」

T:「そして、Cよ。これからの時代は、国に頼るだけでなく、自分の“ニンジン”は自分で守るという意識が大切になる。税金の仕組みを知り、NISAやiDeCoといった、税金がお得になる制度を賢く使う。そうやって、自分の資産をクリープさせない(忍び寄らせない)ことが重要なのじゃ」

C:「あたち、わかった!ブラケットクリープに負けないように、もっともっと勉強する!賢く税金と付き合って、りんごも干し草もいっぱい食べられる、立派なプリンセスになってみせる!」

T:「うむ、それでこそ我が娘じゃ。さぁ、褒美にイチゴをやろう。だが、その前にトイレに行っておいで。玉座が湿っておるぞ」

C:「あっ!…てへっ」

こうして、プリンセスCはまた一つ、賢くなりました。あなたのお給料も、もしかしたら「ブラケットクリープ」に静かに蝕まれているかもしれません。うさぎの王様が言うように、まずは知ることから。そして、賢く自分の資産と付き合っていくことが、このインフレ時代を乗り越えるカギとなりそうです。