【初心者向け】ADRとは?米国預託証券の仕組みをわかりやすく解説

【初心者向け】ADRとは?米国預託証券の仕組みをわかりやすく解説

宇宙のどこかにある、何もかもがふわふわな惑星「ふわふわ星」。この星の通貨は「ニンジン」です。絶対的な王として君臨する兄の「てち王」は、今日もやんちゃな妹姫「ちろ姫」に、未来の女王となるための経済学を、愛情を込めて授けようとしています。


起:おやつの時間と地球の話

星の王である「てち王」と、その妹「ちろ姫」は、おやつの時間を楽しんでいました。今日のメニューは、最高級のニンジンと、ちろ姫の大好物である採れたてのリンゴです。

ちろ姫: 「わーい!おやつ、おやつ!シャクシャク……んー、このリンゴ、甘くておいちい!もっと食べたいなー!」

ぴょんぴょんと跳ねながら、ちろ姫はあっという間にリンゴを平らげてしまいました。その姿を見て、てち王は優雅にニンジンをかじりながら、微笑ましそうに頷きます。

てち王: 「ちろ姫よ、そんなに慌てずともリンゴは逃げたりはせぬよ。プリンセスたるもの、もっと気品を持つものだ。よいか、そのリンゴもニンジンも、我らがふわふわ星の経済を支える大切な資産なのだからな。」

ちろ姫: 「しさん? よくわかんないけど、おいちいからいいの!あ、そうだ!お兄たま、地球っていう星にも、おいちいリンゴはあるんでしょ?」

てち王: 「うむ。地球には様々な『会社』というものがあってな、それぞれが素晴らしい技術やサービス、言うなれば多種多様な『リンゴ』を作っているのだ。例えば『トヨタ』という会社は、ニンジンを運ぶのが非常に上手な『車』という道具を作っておる。その会社のオーナーになる権利、すなわち『株式』を持つことは、その会社が作る未来のリンゴを手に入れるようなものなのだ。」

ちろ姫: 「へぇー!とよたのリンゴ!あたちも食べたーい!たくさんニンジンを払えば買える?」

てち王: 「うむ。だが、トヨタは日本の会社だからな。基本的に日本の市場でしか取引されておらんのだ。地球のうさぎでも、わざわざ日本の証券会社に口座を開かねばならん。それは少し手間がかかるだろう?」

ちろ姫: 「えーっ!アメリカに住んでるお友達は、とよたのリンゴは買えないの!?かわいそう!」

しょんぼりするちろ姫を見て、てち王は優しく笑いかけました。

てち王: 「ふふふ。そう思うだろう?だが、ちろ姫。実は、アメリカに住んでいながら、日本のトヨタ株を買うのとほぼ同じ効果が得られる、魔法のような仕組みがあるのだ。それをな、『ADR』と呼ぶ。」

ちろ姫: 「えーでぃーあーる? なにそれ、新しいおやつの名前!?」

てち王: 「はっはっは、残念ながらおやつではないのだ。だが、知っておくと将来おいしいリンゴを見つける役に立つやもしれんぞ。よし、今日は朕が、このADRという仕組みを、ちろ姫にも分かるように、特別に優しく解説してしんぜよう。」

ちろ姫は、新しいおやつの名前ではないと知って少しがっかりしましたが、優しい兄の言葉に、興味津々に耳を傾け始めました。

ADRって「株の引換券」なの?

てち王: 「よいか、ちろ姫。まず、ADRとは『American Depositary Receipt』の略でな。日本語では『米国預託証券』と言う。……と、これでは少し難しいか。ちろ姫はもう眠くなってしまいそうだな。」

ちろ姫: 「むにゃ……。」

てち王: 「おっと、いかんいかん。もっと簡単に言おう。ADRとは、『アメリカの市場で買える、外国株の引換券』のようなものだと思ってごらん。」

ちろ姫: 「ひきかえけん?」

てち王: 「そうだ。例えば、朕が日本のトヨタの株を100株、銀行に預けるとする。そうすると、その銀行は『てち王がトヨタ株を100株預かっていますよ』という証明書を発行してくれる。この証明書をアメリカに持って行って、アメリカの投資家たちが買えるようにしたものがADRなのだよ。」

てち王は、目の前にあったナプキンに、ちろ姫が分かりやすいように、ゆっくりと絵を描き始めました。

  1. 日本の会社(例:トヨタ)の株 がある。
  2. 米国の銀行が、その日本の株を買い付けて、本国で保管する。
  3. その銀行が、保管している株を裏付けとして、「預かり証(DR)」を発行する。
  4. この「預かり証」がアメリカの証券取引所で売買される。これが ADR だ!

ちろ姫: 「ふむふむ。つまり、本当のリンゴ(株)は日本の倉庫(銀行)にあるけど、『この紙を持ってくれば、いつでもリンゴと交換できるよ!』っていう引換券がアメリカで売られてるってこと?」

てち王: 「おお、その通りだ!なんと、ちろ姫は理解が早いではないか!素晴らしいぞ。褒めてつかわす。その引換券(ADR)は、本物の株価に連動して値動きする。だから、ADRを買うことは、実質的にその会社の株を買うのと同じような効果があるというわけだ。」

ちろ姫: 「へぇー!じゃあ、アメリカのうさぎさんたちも、わざわざ日本の市場にアクセスしなくても、いつも使ってる証券会社で、ドルのままでトヨタのADRが買えちゃうんだ!便利!」

てち王: 「その通り。投資家にとっては、自国の通貨で、使い慣れた取引システムで、外国の有望な企業に投資できるという大きなメリットがある。企業側にも、アメリカの投資家から資金を集めやすくなるというメリットがあるのだ。皆にとって嬉しい仕組みであろう?」

ADRの注意点!いいことばかりじゃない?

得意げに話すてち王に、ちろ姫はふと真剣な顔で問いかけました。

ちろ姫: 「でもお兄たま、そんなにいいことばっかりなの?なんだか怪しい……。昔、お兄たまが隠してた高級イチゴを食べたら、お腹を壊したことがあるもん。おいしい話には裏があるって、あたちの右手(白い方)が言ってる!」

てち王は、一瞬ドキッとしました。あの時のイチゴは、少し熟しすぎていたのを忘れていました。

てち王: 「コホン!……ちろ姫、素晴らしい着眼点だ。その通り、便利な仕組みにも注意すべき点はある。さすがは我が妹。将来が楽しみだな。(…しかし、イチゴの件はまだ覚えておったか)」

ちろ姫: 「えへへ、そうでしょ!それで、注意点ってなあに?」

てち王: 「うむ。大きく分けて3つほどあるから、よく聞くのだぞ。」

  1. 為替リスクがある
    てち王: 「ADRはドル建てで取引される。つまり、トヨタの株価が日本で上がっても、急激な円高ドル安が進むと、ドルで見たときのADRの価値は下がってしまうことがあるのだ。逆に円安ドル高なら、株価の上昇に加えて為替の利益も得られる可能性がある。この為替の動きに影響されるのが、まず一つ目のポイントだ。」
    ちろ姫: 「うーん、ニンジンとリンゴを交換するときのレートみたいなもの? 日によって交換できる数が違うと、嬉しいときと悲しいときがあるもんね。」
  2. 日本株との株価のズレ
    てち王: 「ADRの価格は、基本的には日本の市場で取引されている元の株価に連動する。だが、ADRが取引されるアメリカの市場が開いている時間は、日本は夜中であろう?その間にアメリカで大きなニュースが出ると、一時的に日本の株価とADRの価格にズレが生じることがあるのだ。」
    ちろ姫: 「夜中にこっそりおやつを食べると、次の日の体重が変わっちゃうみたいな感じ?」
    てち王: 「ふふ、その例えはちろ姫らしいな。まあ、そんなものだと考えて良い。多くの場合は、翌朝に日本の市場が開くと、その価格差は自然と解消される方向に向かうから、それほど心配はいらんよ。」
  3. 管理費用(手数料)がかかる場合がある
    てち王: 「ADRは、銀行が株を預かって発行してくれる『引換券』だと言ったな。その銀行に、管理手数料を支払わなければならない場合があるのだ。ほんの僅かな金額ではあるが、コストとして知っておくべき大切なことだ。」
    ちろ姫: 「なるほどー。便利な引換券を発行してくれる銀行さんにも、お礼のニンジンを少しあげなきゃいけないってことね!」

てち王: 「そういうことだ。メリットとデメリットを正しく理解してこそ、立派な大人への第一歩だ。ただニンジンをかじっているだけでは、ふわふわ星の未来は守れんからな、ちろ姫。」

てち王の優しい言葉に、ちろ姫は神妙な顔でうなずき、残っていた干し草をもしゃもしゃと食べ始めました。

ADRは世界への扉

ちろ姫: 「お兄たま、ADRのこと、よーくわかった!アメリカにいながら日本の会社の株が買える、便利な『引換券』なんだね。為替とか手数料とか、ちょっと注意も必要だけど。」

てち王: 「うむ、よく理解できたな。ちなみに、ADRがあるのは日本の会社だけではないのだぞ。イギリス、中国、ブラジルなど、世界中の様々な国の企業がADRを発行している。我々日本の投資家も、アメリカの証券取引所に上場しているADRを買うことで、世界中の企業に簡単に投資ができるのだ。」

ちろ姫: 「え、そうなの!?じゃあ、あたちが日本の証券会社を通じて、ブラジルの会社のADRを買うこともできるの?」

てち王: 「可能だとも。つまりADRは、アメリカの投資家だけでなく、朕たちのような他の国の投資家にとっても、世界中の企業に投資するための便利な扉の役割を果たしている、というわけだ。」

その言葉に、ちろ姫の目はキラキラと輝きました。ふわふわ星の外にある、広大な世界。様々な会社が作る、色とりどりの「リンゴ」。ADRという魔法の引換券を使えば、その世界の豊かさに触れることができる。

ちろ姫: 「すごい!なんだかワクワクしてきた!あたち、もっともっと勉強して、いつか世界中のリンゴの木を育てるお手伝いをするの!そして、おいしいリンゴをいっぱい食べるんだ!」

てち王: 「(…ふふ、やはり食いしん坊なところは変わらぬな)うむ、その意気や良し。良い心がけだ。だが、まずは目の前のニンジンを残さず食べることだな。さあ、今日の勉強はここまでとしよう。」

兄の言葉に、ちろ姫は元気よく「はい!」と返事をしました。窓の外では、ふわふわの雲がゆっくりと流れていきます。小さなプリンセスの心に、世界経済への好奇心という小さな種がまかれた、そんな穏やかな午後のひとときでした。


まとめ解説

さて、てち王とちろ姫の楽しいお話はいかがでしたか?最後に、今日の重要単語「ADR」について、簡単におさらいしておきましょう。

  • ADR (American Depositary Receipt) / 米国預託証券 ADRとは、米国の預託銀行が、米国外の企業(例えば日本企業)の株式を預かり、その株式を裏付けとして米国で発行する証券のことです。 これにより、投資家は米国の証券取引所で、ドル建てで外国株を売買することが可能になります。
  • 投資家にとってのメリット
    • 手軽さ: 自国の証券会社を通じて、自国通貨(ドル)で外国株に投資できる。
    • 情報収集の容易さ: 米国の会計基準に基づいた財務情報が開示されるため、情報が得やすい。
    • 分散投資: 世界中の有望な企業に投資することで、資産を分散させる効果が期待できる。
  • 注意点(デメリット)
    • 為替リスク: 取引はドル建てで行われるため、為替レートの変動によって資産価値が変わる可能性があります。
    • 価格の乖離: 元となる株式が取引されている市場(例:日本市場)と、ADRが取引される米国市場の時差などにより、一時的に価格にズレが生じることがあります。
    • 管理手数料: 預託銀行に対して、管理手数料(カストディアンフィー)が発生する場合があります。

ADRは、私たち日本の投資家にとっても、ソニーグループ(SONY)やトヨタ自動車(TM)といったお馴染みの企業のほか、台湾の半導体メーカーTSMC(TSM)など、世界中の優良企業に投資するための有効な手段の一つです。

投資の世界は奥が深いですが、一つ一つ知識を身につけていけば、きっと新しい世界が見えてくるはずですよ。

それでは、また次回のふわふわ星ブログでお会いしましょう!