なぜ〇〇Payは高還元?裏側にある企業の「経済圏」戦略とキャッシュレス決済の未来

なぜ〇〇Payは高還元?裏側にある企業の「経済圏」戦略とキャッシュレス決済の未来

宇宙のどこか、全てが綿菓子のように柔らかく、雲の上を歩くような心地よさが続く星、その名も「ふわふわ星」。この星に住むうさぎ達は、代々伝わる通貨「ニンジン」を使い、穏やかに暮らしていました。しかし、そんな平和な星に、ある日、地球から黒船ならぬ”黒スマホ”が到来します。その名も「ウサPay」。ニンジンを介さず、スマホ画面を”ピッ”とするだけで買い物が完結するという、魔法のような技術の噂は、瞬く間に星中を駆け巡りました。


ちろ姫: 「てち王お兄様! ご覧になりましたか!?」

まだ朝露に濡れた干草の匂いが残る、ふわふわ城のテラス。一人のうさぎのプリンセス、ちろ姫が、ぴょんぴょんと跳ねながら駆け込んできました。その小さな右手(ここだけ真っ白なのです)には、「今すぐ登録でニンジン50本プレゼント!」と書かれた「ウサPay」の旗が握られています。

ちろ姫: 「街中がこの旗でいっぱいです! ピッてするだけで、りんごが買えるんですって! あたち、もうニンジンをポケットに詰め込んで、重たい思いをしなくて済むのです! さっそく、りんご100個、ピッてしてきます!」

興奮で鼻をひくひくさせ、今にも駆け出しそうになる妹を、てち王は優しく、しかし威厳のある声で制します。

てち王: 「待つのじゃ、ちろ姫。そなたは将来このふわふわ星を担う王女。新しいものに心躍らせるのは良いことじゃ。しかし、ただ闇雲に飛びついてはならん。なぜ『ピッ』とりんごが買えるのか。その仕組みと、ウサPayが我らの星にやってきた本当の理由…それらを理解してこそ、真に技術を使いこなしたと言えるのじゃ」

てち王は、フワフワの王座からゆっくりと立ち上がると、愛用のニンジンの形をしたステッキを手に取り、にこりと微笑みました。

てち王: 「良い機会じゃ。朕が直々に、そなたに『QR決済』の特別講義をしてやろう。王女になるための、大切な一歩じゃ」

ちろ姫は、大好物のりんごを一旦我慢し、尊敬する兄の言葉に、ぴくっと長い耳を傾けたのでした。

「ピッ」の裏側で何が?2つの決済方式

てち王: 「まず、ちろ姫よ。この『QRコード』と呼ばれる、白黒のまだら模様。これは何だと思う?」

てち王がステッキの先で示したのは、ウサPayの旗に印刷された四角い模様でした。

ちろ姫: 「えーっと…なんだか、うさぎの足跡がいっぱい集まったみたいでかわいい!」

てち王: 「ふふ、良い感性じゃな。まあ、当たらずとも遠からず。これは、たくさんの情報を詰め込んだ『魔法の地図』のようなもの。例えば、『ふわふわ城の東にある、一番甘いイチゴ畑の、前から3列目の、5番目の株』といった細かい情報まで、この小さな四角に記録できるのじゃ。これをスマホのカメラで読み取ることで、瞬時に情報を伝えられるというわけじゃな」

ちろ姫: 「へぇー! じゃあ、お店でピッてするときは、どんな情報が伝わってるのですか?」

てち王: 「良い質問じゃ。それには、大きく分けて2つの方法がある。実際に街に出て見てみよう」

そう言うと、てち王はちろ姫を連れて、お城の下にある商店街へと向かいました。

方法その①:お店の地図を読み取る「ユーザースキャン方式」

二人が最初に訪れたのは、ちろ姫お気に入りの、おばあさんうさぎが一人で切り盛りする小さな「ポカポカ干草店」でした。店先には、手書きの看板と一緒に、一枚のQRコードがぶら下がっています。

てち王: 「ちろ姫、ここで干草を1束買ってみなさい。ウサPayでな」

ちろ姫: 「うん!」

ちろ姫は、てち王に教わった通り、自分のスマホでウサPayアプリを起動し、お店のQRコードを読み取りました。すると、画面に金額を入力する欄が現れます。

ちろ姫: 「干草1束は、10ニンジン…っと。入力して…えいっ!」

ちろ姫が決済ボタンを押すと、スマホから「ピョイン!」という可愛らしい音が鳴り、お店のおばあさんの端末にも「お支払いありがとうございます」という通知が届きました。ちろ姫は、ニンジンを1本も渡していないのに干草を受け取り、目を丸くしています。

ちろ姫: 「お兄様! 魔法です! ニンジンはどこからどこへ行ったのですか?」

てち王: 「ふむ。その魔法の裏側を解説しよう。今、そなたのスマホと店の間に、こんなやり取りがあったのじゃ」

  1. ちろ姫のスマホ → ウサPayの城(サーバー)へ手紙を送る
    • 手紙の内容:「私、ちろ姫は、ポカポカ干草店に10ニンジンを支払います。許可をください」
  2. ウサPayの城 → ちろ姫のニンジン貯金箱を確認
    • 城の番人:「ちろ姫様は、確かに10ニンジン以上を我々に預けておられるな。よし!」
  3. ウサPayの城 → ポカポカ干草店へ狼煙(のろし)を上げる
    • 狼煙の内容:「ちろ姫様のお支払いは、我々ウサPayが保証する! 商品を渡してよし!」
  4. 後日…
    • ウサPayの城は、ポカポカ干草店に、立て替えていた10ニンジンから、少しだけ手数料を引いて渡す。

てち王: 「このようにお店に提示されたQRコードを、客である我らが読み取る方法を『ユーザースキャン方式(MPM)』と呼ぶ。個人商店など、レジシステムが大掛かりでない場所でも簡単に導入できるのが特徴じゃな」

方法その②:自分の通行手形を見せる「ストアスキャン方式」

次に二人が向かったのは、星で一番大きな大型スーパー「ニンジン・パラダイス」。ここでは、レジにQRコードは置かれていません。

てち王: 「さあ、ここでは朕の好物であるイチゴを買ってみよう」

レジに進んだてち王は、ウサPayアプリを開き、今度はQRコードではなく、バーコードが表示された画面を店員に見せました。店員がそれを専用の機械で「ピッ」と読み取ると、即座に決済が完了しました。

ちろ姫: 「あら! 今度はお店の地図を読み取るんじゃなくて、お兄様のスマホの画面をお店が読み取りましたわ! なぜ違うのですか?」

てち王: 「これは『ストアスキャン方式(CPM)』と呼ばれるもの。先ほどのユーザースキャンとは、役割が逆じゃな。これは、いわば『朕はふわふわ星の王、てち王である!』と書かれた通行手形(スマホのバーコード)を、店の番人(レジ)に見せるようなものじゃ」

  1. てち王 → レジに通行手形(バーコード)を提示
  2. レジ(店の番人) → ウサPayの城へ早馬を走らせる
    • 早馬の伝言:「てち王様と名乗る方が、イチゴ50ニンジン分を購入希望です。支払いは可能ですか?」
  3. ウサPayの城 → 伝言を確認し、許可を出す
    • 番人:「王様のお支払いに問題などあろうはずがない。許可する!」
  4. レジ → 決済完了

てち王: 「この方法は、お店のレジシステム(POSシステム)と連携しているため、金額の打ち間違いなどが起こらない。だから、ニンジン・パラダイスのような、たくさんのお客さんを捌く大型店で使われることが多いのじゃ」

ちろ姫: 「なるほどー! どっちが『ピッ』てやるかで、裏側のやり方が違うのですね! 少し賢くなりました!」

セキュリティと、乱立する〇〇Payの謎

仕組みを理解し、得意げに鼻をぴくぴくさせるちろ姫。しかし、ふと不安そうな顔で兄を見上げました。

ちろ姫: 「でも、お兄様…その通行手形や魔法の地図を、悪いオオカミに盗み見られたらどうするのですか? 私たちのニンジンが、全部オオカミのお腹に入ってしまったら…」

心配で、大きな耳がぺたんと垂れてしまうちろ姫。てち王は、そんな妹の頭を優しく撫でました。

なぜ安全?オオカミも解読不能な「暗号化」と「使い捨ての手形」

てち王: 「安心せい、ちろ姫。そこには、我らのニンジンを守るための強力な護衛がついておる。まず、スマホとウサPayの城との手紙のやり取りは、すべて『暗号化』されておる」

ちろ姫: 「あんごうか…?」

てち王: 「うむ。我々うさぎにしか解読できない、秘密の言葉で手紙を書くようなものじゃ。もしオオカミが途中で手紙を奪っても、そこに書かれているのは意味不明の落書きにしか見えず、中身を読み取ることはできん」

てち王: 「さらに、ストアスキャン方式で見せたあのバーコード。あれは『トークナイゼーション』という技術が使われていて、一度きりしか使えない『使い捨ての通行手形』なのじゃ」

ちろ姫: 「使い捨て!?」

てち王: 「そうじゃ。決済のたびに、全く新しい手形が発行される。だから、万が一レジでピッとした瞬間の手形を盗み見られたとしても、その手形はもう何の役にも立たん。オオカミがそれを使って買い物をしようとしても、番人に『この手形は無効です!』と追い返されるだけじゃ。安全じゃろう?」

ちろ姫は感心しきった様子で、何度も頷きました。しかし、すぐにまた新たな疑問が浮かんだようです。

なぜこんなにたくさん?〇〇Pay乱立の本当の理由

ちろ姫: 「安心しました! でも、もう一つ不思議なことが…。街には『ウサPay』の他に、『フワPay』とか『ピョンPay』とか、色々な旗が立っています。どうして、みんなで一つのPayを使わないのですか?」

てち王: 「…ちろ姫よ、ついに本質に迫る質問をしたな。それこそが、地球の企業たちがこのふわふわ星で繰り広げようとしている、仁義なき『ニンジン畑の陣取り合戦』の始まりなのじゃ」

てち王の目が、いつになく鋭く光ります。

てち王: 「よいか。『ウサPay』を運営する地球の巨大企業『ウサギ・ホールディングス』の真の目的は、決済の手数料で儲けることだけではない。彼らが本当に欲しいのは、そなたや朕…ふわふわ星の住民全員を、自分たちの『経済圏』に取り込むことなのじゃ」

ちろ姫: 「けいざいけん…? ニンジン畑のこと?」

てち王: 「まさにその通りじゃ。『ウサギ・ホールディングス』は、ウサPayの他にも、ネット通販の『ウサゾン』、動画配信の『ウサチューブ』、銀行サービスの『ウサバンク』など、数多くのサービスを運営しておる。彼らは、我々にウサPayを使わせることをきっかけに、生活のすべてを彼らのサービスで固めてしまいたい。つまり、ウサギ・ホールディングスのニンジン畑の、熱心な住人になってほしいのじゃ」

決済は、その広大なニンジン畑への入り口にすぎない、とてち王は続けます。

てち王: 「一度その畑に住み着き、貯めたポイント(畑でしか使えない特別なニンジン)が沢山あると、他の畑に移るのが億劫になるじゃろう? 『フワPay』や『ピョンPay』も、それぞれが別のニンジン畑への入り口。だからこそ、彼らは『登録でニンジン50本!』などと大盤振る舞いをして、必死に住民を自分の畑に呼び込もうとしておる。あれは、いわば『ウェルカム・ニンジン』じゃな」

賢い王女への第一歩

てち王の解説を聞き終えたちろ姫は、ただ「便利そう!」と目を輝かせていた数時間前の自分を、少し恥ずかしく思いました。スマホの画面を「ピッ」とすることの裏側には、高度な技術と、企業たちの壮大な戦略が隠されていたのです。

ちろ姫: 「ただ便利なだけじゃなかったのね…。どのニンジン畑が一番美味しくて、安全で、あたちに合っているのか…自分の頭でしっかり考えなければ、王女失格です!」

その瞳には、単なる好奇心ではなく、未来の統治者としての知的な輝きが宿っていました。

てち王: 「うむ。その通りじゃ、ちろ姫。仕組みを知り、その裏側にある意図を読み解き、自分にとって最良の選択をする。それこそが、これからの時代を生きる我々を豊かにするのじゃ。よく学び、よく考えたな」

満足げに頷いたてち王は、ちろ姫の頭を優しく撫でました。

てち王: 「さあ、講義はここまでじゃ。褒美に、朕がとっておきのイチゴを買ってやろう。もちろん、ウサPayでな!」

二匹のうさぎは、夕日に染まる商店街を、仲良く並んで歩いていきました。ちろ姫が、どの決済サービスをメインに使うことにしたのか。それはまた、別のお話。便利なキャッシュレスの世界で、あなたがどの「ニンジン畑」の住人になるのかを選ぶのは、他の誰でもない、あなた自身なのです。


用語解説

今回の物語で登場した、少し難しい言葉を簡単におさらいしましょう。

  • QRコード決済: QRコードを使って、スマートフォンで支払いを行うキャッシュレス決済サービスのこと。銀行口座やクレジットカードと連携させ、事前にお金をチャージして使います。
  • ユーザースキャン方式(MPM: Merchant-Presented Mode): お店が提示したQRコードを、利用者が自分のスマホで読み取る方式。小規模な店舗でも導入しやすいのが特徴です。
  • ストアスキャン方式(CPM: Customer-Presented Mode): 利用者がスマホに表示したQRコードやバーコードを、お店側がレジのスキャナーで読み取る方式。大手コンビニやスーパーなどで多く採用されています。
  • 暗号化: データを特定のルールに従って変換し、第三者が見ても内容が分からないようにすること。通信の盗聴などを防ぐための基本的なセキュリティ技術です。
  • トークナイゼーション(Tokenization): クレジットカード番号などの重要な情報を、一度しか使えない別の文字列(トークン)に置き換える技術。万が一トークンが漏洩しても、元のカード情報が盗まれるリスクを大幅に低減できます。
  • プラットフォーマー: 商品やサービスを提供するための「基盤(プラットフォーム)」を運営する事業者のこと。Google, Apple, Amazonなどが代表例で、今回の物語では「ウサギ・ホールディングス」がこれにあたります。
  • 経済圏(エコシステム): ある企業グループが提供する様々なサービスで構築された、顧客の囲い込み経済圏のこと。決済、ECサイト、金融、エンタメなどを連携させ、利用者を自社のサービス内に留まらせることを目的としています。