【何%で損切り?】インデックス投資の下落・暴落時の対処法|S&P500の歴史に学ぶ

【何%で損切り?】インデックス投資の下落・暴落時の対処法|S&P500の歴史に学ぶ

宇宙のどこかにある、何もかもが“ふわふわ”な惑星、その名も「ふわふわ星」。この星では、立派なニンジンが通貨として流通しています。今日の主役は、この星の若き王「てち王」と、その妹「ちろ姫」。なにやら、ちろ姫が大騒ぎしているようです…。

消えたニンジンとプリンセスの涙

ちろ姫: 「うわぁぁぁん!てち王お兄様、大変でち!あたちの大事なニンジンが…ニンジンが減ってるんでちぃぃ!」

(ちろ姫は、自分のニンジン畑の前で、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら大泣きしています。その目には大粒の涙が浮かんでいました。)

てち王: 「おやおや、ちろ姫。そんなに慌ててどうしたのじゃ?ニンジンなら、朕が昨日美味しいイチゴと一緒に分けてあげたではないか。」

(てち王は、フワフワの毛並みを揺らしながら、ゆったりと妹に歩み寄ります。その佇まいは、まさに星を統べる王の風格です。)

ちろ姫: 「昨日もらったニンジンじゃないんでち!あたちが将来、立派な王女になるために、コツコツ貯めてた『ニンジン畑(インデックスファンド)』のニンジンが、小さくなってるんでち!この前まで100本あったのに、今見たら80本分しか育ってないんでち!誰かに盗られたに違いないんでち!」

てち王: 「ふむ…なるほどな。ちろ姫、それは誰かに盗られたわけではないのじゃよ。それは、経済の天候が今、少しだけ曇っているだけのこと。心配せずとも良い。」

ちろ姫: 「天候?でも、ニンジンは減ってるんでち!このままだと、あたちのニンジン、0本になっちゃう!もうニンジンを引っこ抜いて、全部干草とリンゴに替えちゃうでち!」

てち王: 「まあ待つのじゃ、ちろ姫。お主のような初心者が、まさにやってしまいがちな過ちじゃな。良い機会じゃ。今日は朕が、インデックス投資における『損』とは何か、そして我々うさぎが、どのように経済の嵐を乗り越えるべきかを、直々に教えてやろう。未来の王女たるもの、ニンジン畑の多少の不作に動揺していては、民を導くことはできぬぞ。」

ちろ姫: 「うぅ…わかったでち…。でも、難しい話は眠くなっちゃうから、手短にお願いするでち…。」

(ちろ姫は涙を拭うと、おやつの干草を口いっぱいに頬張りながら、兄の言葉に耳を傾け始めました。)


『評価損』は幻?歴史的な大嵐を振り返る

てち王: 「うむ。ではまず、最も重要なことから教えよう。ちろ姫、お主が今嘆いている『減ってしまった20本のニンジン』は、実はまだ本当の意味で“損”したわけではないのじゃ。」

ちろ姫: 「え?でも、現に目の前のニンジンは小さくなってるでちよ?あたちの目が可笑しいんでちか?」

てち王: 「ははは。ちろ姫の目は、いつだって星のように輝いておるよ。そうではない。金融の世界では、今の状況を『評価損(ひょうかぞん)』と呼ぶのじゃ。」

ちろ姫: 「ひょーかぞん?」

てち王: 「うむ。簡単に言えば、『もし“今すぐ”ニンジンを全部引っこ抜いて、干草やリンゴに交換したら、20本分の損が出ますよ』という、あくまで“仮”の計算結果じゃ。ちろ姫は、まだニンジンを1本も引っこ抜いておらんじゃろう?つまり、お主のニンジン畑の価値は、日々畑の様子(市場)を見に来る他のうさぎ達の気分によって、一時的に低く見積もられているに過ぎない。これを『評価額が下がった』と言うのじゃ。」

ちろ姫: 「ふむふむ。じゃあ、本当の損じゃないんでちか?」

てち王: 「その通りじゃ。本当に損が確定するのは、ちろ姫が『もうダメだ!』と諦めて、評価額が下がっているまさにその時に、ニンジンを引っこ抜いて干草に替えてしまった時じゃ。これを『実現損(じつげんそん)』と言う。評価損は幻、実現損は現実、と覚えると良い。」

ちろ姫: 「なるほどー!じゃあ、引っこ抜かなければ、損じゃないんでちね!…でも、お兄様。もし、ニンジン畑が病気になって、ニンジンがどんどん腐って、最後には全部なくなっちゃったらどうするんでちか?そうなったら、引っこ抜きたくなくても、損しちゃうじゃないでちか!」

てち王: 「鋭い指摘じゃな、ちろ姫。その心配は、投資をする者なら誰もが一度は抱く不安じゃ。では、我々が投資している『S&P500』や『全世界株式(オルカン)』といったニンジン畑が、過去にどれほどの嵐に見舞われ、そしてどうなったかを見てみようかの。」

てち王: 「まず、近年で最も大きな嵐は、2008年頃に起きた『リーマンショック』じゃ。これは100年に一度と言われるほどの大嵐でな。地球で最も元気なニンジン500種の詰め合わせパックである『S&P500』畑ですら、最大で約55%もニンジンの価値が小さくなってしまった。」

ちろ姫: 「ご、55%!?100本あったニンジンが、45本になっちゃうってことでちか!?ぴょえーっ!」

てち王: 「そうじゃ。当時は、多くのうさぎ達がパニックになり、『もうニンジン畑は終わりだ!』と、泣く泣くニンジンを引っこ抜いていった…。じゃが、どうじゃ。その後の畑の様子を見てみろ。」

てち王: 「大嵐の後、畑は力強く再生し、元の大きさに戻るまでには約5年半かかったが、その後は以前よりも遥かに大きなニンジンを実らせる畑へと成長したのじゃ。次に、最近の嵐として記憶に新しいのが、2020年の『コロナショック』じゃな。この時は、わずか1ヶ月ほどでS&P500畑のニンジンが約34%も小さくなった。」

ちろ姫: 「それもすごい勢いでち…。」

てち王: 「うむ。じゃが、この時の回復は驚くほど早かった。わずか5ヶ月ほどで、嵐の前の水準までニンジンは元気に育ち直したのじゃ。我々が信頼している『S&P500』や、星中のニンジンをまるっと育てている『全世界株式(オルカン)』という畑は、一時的に嵐でニンジンが小さくなることはあっても、畑そのものが腐ってゼロになることは、これまでの歴史上、一度もなかったのじゃよ。」

ちろ姫: 「そ、そうでちか…。歴史が証明しているんでちね。」

てち王: 「そうじゃ。我々のような専門家…いや、王族はつい、『長期的に見れば右肩上がりですから』と涼しい顔で言ってしまうが、その背景には、こういった歴史的な大嵐に耐え抜いてきたという、畑そのものの強さがあることを忘れてはならん。」


損切りの罠とプリンセスの心理学

ちろ姫: 「歴史はよくわかったでち。でも、やっぱり怖いもんは怖いでち!じゃあ、一体何%下がったら、一旦ニンジンを引っこ抜くべき(損切りすべき)なんでちか?お兄様は専門家だから、知ってるんでちょ?」

(ちろ姫は、干草を食べる手を止め、真剣な眼差しでてち王を見つめます。)

てち王: 「…ちろ姫よ、それは非常に難しい質問じゃ。そして、インデックスの長期積立投資においては、ある意味で“罠”とも言える問いなのじゃ。」

ちろ姫: 「罠、でちか?」

てち王: 「うむ。例えば、『20%下がったら損切りする』というルールを自分で決めたとしよう。これを『損切りライン』と言う。一見、損失を限定できる賢いやり方に見えるな。しかし、思い出してみろ。コロナショックでは34%、リーマンショックでは55%も価値が下がった。もし、ちろ姫が20%で損切りしていたらどうなっていた?」

ちろ姫: 「えーっと…本当はもっと下がったから、被害を少なくできた…?」

てち王: 「半分正解で、半分不正解じゃ。確かに、その時点での損失は20%で済んだかもしれん。じゃが、問題はその“後”じゃ。損切りした後、ちろ姫はいつ、もう一度ニンジン畑に種を蒔く(買い戻す)のじゃ?畑の価値がどんどん回復していくのを、指をくわえて見ているだけになるかもしれん。最も最悪なのは、損切りした価格よりも高い価格で買い戻すことじゃ。これを、我々うさぎ界隈では『ぴょんぴょん往復ビンタ』と呼んで恐れておる。」

ちろ姫: 「ぴょんぴょん…びんた…。痛そうでち…。」

てち王: 「じゃろう?インデックスの長期積立投資は、そもそも『ドルコスト平均法』という、畑の価値が高い時も安い時も、毎月決まった量のニンジンを植え続けることで、平均購入単価を平準化させるという戦略が基本じゃ。嵐が来て、周りのうさぎがニンジンを安売りしている時こそ、実は絶好の買い増しチャンス…つまり、『ニンジン畑のバーゲンセール』なのじゃよ。そこで損切りをして畑から逃げ出すというのは、この戦略の根幹を揺るがす行為なのじゃ。」

ちろ姫: 「でも…でも!ニンジンが減っていくのを見ると、悲しくて、不安で、いてもたってもいられなくなって、ぴょんぴょん飛び跳ねて売りたくなっちゃう気持ちもわかるでち!」

てち王: 「もちろんだとも。その感情は、決してお主が未熟だからというわけではない。それは、生物として極めて自然な反応なのじゃ。『プロスペクト理論』という、少し難しい言葉があるのだが…」

ちろ姫: 「ぷろすぺ…?」

てち王: 「簡単に言えば、我々うさぎ…いや、人間もそうじゃが、利益を得た時の喜びよりも、損失を被った時の悲しみや苦痛の方を、遥かに強く感じてしまうという心の働きのことじゃ。『ニンジンを10本もらった喜び』よりも、『ニンジンを10本失った悲しみ』の方が、2倍以上も心に響くと言われておる。だから、ニンジン畑の価値が下がると、合理的な判断ができなくなり、『これ以上悲しい思いをしたくない!』という一心で、パニックになって売ってしまうのじゃ。これを『狼狽(ろうばい)売り』と言う。」

ちろ姫: 「あたち、まさに狼狽売りしそうだったでち…。」

てち王: 「誰しもがそうなる可能性を秘めておる。じゃからこそ、こうして事前に知識をつけ、自分の心の動きを理解しておくことが、何よりも大切なのじゃ。嵐が来た時に、巣穴でじっと耐える知恵。それこそが、長期投資家にとって最大の武器となる。」


未来の王女よ、ニンジンの数を数えるな

てち王: 「ちろ姫、もうわかったかな?インデックス投資で、我々が本当に『損』をするのは、一体どんな時か。」

ちろ姫: 「…うん。評価損が出ている時に、慌ててニンジンを引っこ抜いてしまうこと…狼狽売りしちゃうことでち!」

てち王: 「その通りじゃ、よくできました。お主が育てているのは、1年や2年で収穫するための短期的なニンジン畑ではない。10年、20年、あるいはそれ以上先の、ちろ姫が立派な王女になった時に、大きな実りを得るための長期的なニンジン畑なのじゃ。その長い道のりの中では、今日のような曇りの日もあれば、大嵐の日も必ず来る。じゃが、歴史が示す通り、太陽は必ずまた昇る。」

ちろ姫: 「そっか…。じゃあ、これからはニンジンがちょっと小さくなっても、慌てずに、干草をもぐもぐしながら待っていればいいんでちね!」

てち王: 「うむ。むしろ、『お、ニンジン畑が安売りセール中じゃな。来月は少し多めに種を蒔いておくか』くらいの、どっしりとした構えが必要じゃ。未来のふわふわ星を背負って立つ王女たるもの、目先のニンジンの数に一喜一憂していては、民の心は掴めぬぞ。」

ちろ姫: 「はーい!お兄様!あたち、もう泣かないでち!嵐が来たら、お兄様の後ろに隠れて、美味しいリンゴをかじりながら応援するでち!」

てち王: 「ははは、それでこそ朕の妹じゃ。さあ、今日の勉強はここまでじゃ。褒美に、とっておきの完熟イチゴをやろう。」

てち王とちろ姫は、仲良くイチゴを頬張ります。ふわふわ星の空は、いつの間にか晴れ渡り、2匹のうさぎの未来を明るく照らしているのでした。


用語解説

今回のうさぎ達の会話に出てきた、少し難しい言葉を解説します。

  • インデックス投資: 特定の市場の動きを示す指数(インデックス)に連動する成果を目指す投資手法。S&P500や全世界株式(オルカン)などが代表的な指数です。市場全体に投資するため、専門的な知識が少なくても始めやすいのが特徴です。
  • S&P500: 米国の代表的な企業500社の株価を基に算出される株価指数。世界経済の中心である米国の、主要な大企業にまとめて投資できるため、非常に人気の高いインデックスです。
  • 全世界株式(オルカン): その名の通り、先進国から新興国まで、世界中の株式にまとめて投資するインデックス。「All Country World Index」の略称から「オルカン」と呼ばれます。究極の分散投資とも言えます。
  • 評価損・実現損:
    • 評価損: 保有している資産の価値が、購入した時よりも下がっている状態。まだ売却していないため、損失は確定していません。
    • 実現損: 評価損が出ている資産を、実際に売却して損失を確定させること。
  • 損切り: これ以上の損失拡大を防ぐために、評価損が出ている資産を売却して、損失を確定させること。
  • 狼狽(ろうばい)売り: 市場が急落した際に、パニックに陥って保有資産を売却してしまうこと。多くの場合、底値圏で売ってしまい、その後の回復の恩恵を受けられない結果に繋がります。
  • ドルコスト平均法: 価格が変動する金融商品を、常に一定の金額で、定期的に買い続ける手法。価格が低い時には多く、高い時には少なく買うことになるため、平均購入単価を平準化させる効果が期待できます。積立投資の基本となる考え方です。
  • プロスペクト理論: 人間は「利益を得る喜び」よりも「損失を被る苦痛」を強く感じるという、行動経済学の理論。この心理的な偏りが、投資における不合理な判断(狼狽売りなど)を引き起こす一因とされています。