CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは?わかりやすく解説|電子マネーや仮想通貨との違いも

CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは?わかりやすく解説|電子マネーや仮想通貨との違いも

ふわふわ星の昼下がり。空には綿菓子のような雲がゆっくりと流れ、星じゅうに甘い香りが漂っています。

ちろ姫は、お気に入りの切り株の椅子に座り、シャクシャクと音を立てて真っ赤なりんごを頬張っていました。その隣では、兄であるてち王が、地球から取り寄せた分厚い経済レポートに静かに目を通しています。

そんな穏やかな時間に、のっしのっしと、大きな甲羅を揺らしながらノンビリ・タートルがやってきました。彼の顔はいつになく曇っています。


ニンジンが消える日

ちろ姫: 「あたち、このりんご、最高においちい!タートルさんも食べる?」

元気いっぱいのちろ姫が声をかけるが、ノンビリ・タートルの表情は晴れない。

ノンビリ・タートル: 「ちろ姫さま、ありがとうごぜぇます…。じゃが、今はそんな気分じゃなくて…。実は、わし、とんでもない噂を聞いてしまったんじゃ」

てち王: 「ほう、タートル殿。朕の耳にも入れてみよ。何やら深刻な顔をしておるではないか」

レポートから顔を上げたてち王が、優しい声で促します。

ノンビリ・タートル: 「は、てち王さま…。実は、近いうちに、このふわふわ星から、わしらが大切にしているニンジンが、ぜーんぶ無くなってしまうという噂でして…!なんでも、ただの『数字』に変わってしまうとか…」

ちろ姫: 「えええっ!?あたちのニンジンがなくなっちゃうの!?おやつも買えなくなるし、ぴょんぴょん飛ぶ元気もなくなっちゃうよぉ!」

手からりんごを落としそうになるほど驚くちろ姫。大好きなニンジンが消えるなど、彼女にとっては世界の終わりも同然です。

てち王: 「ふむ。落ち着きなさい、ちろ姫。タートル、その噂、おそらくは『中央銀行デジタル通貨』、通称『CBDC』のことだろう。ニンジンが完全に消えるわけではない。だが、お金の形が大きく変わる可能性を秘めた、大切な話だ。今日はそれを学んでみよう」

てち王は、パタンと本を閉じ、妹と友人に未来のお金の話を始めることにしました。

デジタルニンジンって何?

ちろ姫: 「ちゅーおーぎんこー…でじたるつーか? なあにそれ? 食べられるの?」

てち王: 「はは、食べられはしないさ。良いか、二人とも。今、我々が使っているお金には、主に二つの形がある。ちろ姫が今持っているような、手で触れる『物理的なニンジン(現金)』。そして、銀行の口座に入っている『数字としてのニンジン(預金)』だ」

ノンビリ・タートル: 「わしは、コツコツ貯めたニンジンを庭の土の中に埋めておくのが一番安心じゃ。手で触れるし、確かにそこにあるからのぅ」

てち王: 「うむ。その気持ちはよくわかる。だが、考えてもみよ。遠くの星に住む友人にニンジンを送るとき、どうする? 一本一本箱に詰めて、ロケット便で送るのは大変だろう?」

ちろ姫: 「うん!送料だけでニンジンが10本もかかっちゃう!」

てち王: 「そこで登場するのが、銀行の口座を使った送金だ。これは、銀行が『Aさんの口座からBさんの口座へ、ニンジンを100本移動しました』と、帳簿上の数字を書き換えているに過ぎない。しかし、これとて銀行という民間の機関を介している。今回話すCBDCは、それらとは少し違うのだ」

てち王は、ふわりと宙に浮かぶ雲を指でなぞり、絵を描き始めた。

てち王: 「『中央銀行デジタル通貨(CBDC)』とは、朕たちが信頼する、このふわふわ星の通貨『ニンジン』を発行している、いわば『ふわふわ星銀行』。その中央銀行が直接発行する、デジタルのニンジンなのだ」

ノンビリ・タートル: 「中央銀行が…直接? わしらの銀行預金とは違うのかえ?」

てち王: 「良い質問だ、タートル殿。君の銀行預金は、あくまで民間の銀行に対する『債権』だ。万が一、その銀行が倒産すれば、君のニンジンはすぐには戻ってこないかもしれない。だが、CBDCは国の中央銀行が直接発行するもの。その価値は、中央銀行、つまり国そのものが保証する。いわば、手元のニンジンと同じくらい、いや、それ以上に安全なデジタルデータのお金と言える」

ちろ姫: 「ふーん? じゃあ、その『でじたるにんじん』があったら、どんないいことがあるの?」

てち王: 「例えば、決済がとても速くて簡単になる。スマホのような端末をかざすだけで、瞬時に支払いが終わる。銀行を介さないから、手数料も安くなるかもしれん。それに、コンコン・フォックスのような悪い奴らが、偽物のニンジンを作ったり、マネーロンダリング(資金洗浄)をしたりするのを防ぎやすくなる。お金の流れが透明になるからな」

ちろ姫は、ピピっとするだけでりんごが山のように買える未来を想像して、少しわくわくしてきました。しかし、ノンビリ・タートルの甲羅は、さらに固く閉ざされていくようです。

見えないお金への不安

ノンビリ・タートル: 「王さま、お話はわかりますじゃ。便利になるかもしれん。じゃが、わしはどうにも不安でならんのです」

てち王: 「その不安こそが、今まさに地球の専門家たちも議論している重要な点だ。申してみよ」

ノンビリ・タートル: 「まず一つ。何もかもがデジタルになったら、大規模な停電が起きたり、システムに障害が発生したらどうなるんですか? わしの甲羅の下のニンジンは、雷が鳴ってもびくともせん。じゃが、デジタルニンジンは一瞬で消えてしまうのでは…?」

てち王: 「もっともな懸念だ。だからこそ、専門家たちは、インターネットに接続していなくても使える『オフライン決済』の技術を必死に研究している。例えば、端末の中に少額のデジタルニンジンを『チャージ』しておくようなイメージだな。災害時でも最低限の買い物ができるように、と」

ノンビリ・タートル: 「二つ目ですじゃ。お金の流れが透明になるということは…わしがな、け、甲羅のワックスに毎月何本ニンジンを使っているかまで、全部、国に監視されてしまうということですか…?」

顔を赤らめるタートル。彼のささやかな楽しみが、国家の知るところになるのは耐えられないようです。

てち王: 「プライバシーの問題だな。これも最大の課題だ。多くの国で検討されているのは『二層構造』という仕組みだ。中央銀行は、誰がいくら持っているかという大きな流れだけを管理する。一方で、個々の取引、つまりタートルがどの店でワックスを買ったか、というような細かい情報は、民間の銀行などが管理する。もちろん、そこには厳格なプライバシー保護のルールが課されることになるだろう。朕とて、ちろ姫が毎日おやつに何本ニンジンを使っているか、全てを把握したいわけではないからな」

ちろ姫: 「えへへ…。あたち、昨日だけでりんご3個と干し草一袋…」

てち王: 「…まあ、そういうことだ。そして、タートル。君のような考えを持つうさぎや亀は、この星にたくさんいる。手で触れるニンジンへの信頼は根強い。だから、仮にCBDCが導入されたとしても、すぐに物理的なニンジンがなくなるわけではない。両方が、長い時間をかけて共存していくことになるだろう。選択肢が増える、と考えるのが正しい」

その言葉に、ノンビリ・タートルの固く閉ざされていた甲羅の扉が、少しだけ開いた気がしました。

新しいお金との付き合い方

ノンビリ・タートル: 「なるほどのぅ…。無理やりデジタルにされるわけではなく、選択肢が増える、と。わしの庭のニンジン貯金が、すぐに無価値になるわけではないんじゃな」

てち王: 「その通りだ。CBDCは、現金と預金に加わる『第三のお金』。それぞれに長所と短所がある。我々は、その特性を正しく理解し、自分のライフスタイルに合わせて賢く使い分ける時代を迎えることになるだろう」

ちろ姫: 「あたち、わかった! 大きな買い物や、遠くの星へのお買い物はピピっと『でじたるにんじん』! 毎日のおやつは、ポケットのニンジンで買う! これなら便利だし、楽しいね!」

ちろ姫の単純明快な答えに、てち王とノンビリ・タートルは思わず顔を見合わせて微笑みました。

てち王: 「うむ。その通りだ、ちろ姫。未来を正しく知ることで、漠然とした不安は、具体的な備えと期待に変わる。ノンビリ・タートル殿、これで少しは心が軽くなったかな?」

ノンビリ・タートル: 「はい、王さま。おかげさまで。まだ勉強が必要じゃが、頭ごなしに怖がるのはやめにしますじゃ。未来のお金とやらを、わしも少しずつ学んでいこうと思います」

すっかり安心したノンビリ・タートルは、ちろ姫が差し出すりんごの残りを、今度は美味しそうに受け取りました。 ふわふわ星の空は、どこまでも青く澄み渡っています。


用語解説

今回の物語、いかがでしたか?最後に、少しだけ難しい言葉を復習しておきましょう。

  • 中央銀行デジタル通貨(CBDC / Central Bank Digital Currency)
    • その国の中央銀行(日本では日本銀行)が発行する、デジタル形式の法定通貨のことです。私たちが普段使っている現金(紙幣や硬貨)をデジタルにしたもの、とイメージすると分かりやすいでしょう。
  • 電子マネーとの違いは?
    • Suicaや楽天Edyなどの「電子マネー」は、民間の企業が発行しています。その企業の信用の上にお金の価値が成り立っており、送金など機能に制限がある場合が多いです。一方、CBDCは国(中央銀行)が直接価値を保証するため、最も信用の高いデジタルマネーと言えます。
  • 暗号資産(仮想通貨)との違いは?
    • ビットコインなどの「暗号資産」は、特定の国や中央銀行のような発行主体や管理者が存在しません。価格の変動が非常に激しいのが特徴です。CBDCは、自国の通貨(日本では「円」)と常に同じ価値を持つように設計されるため、価格変動のリスクはありません。
  • CBDCのメリットと課題
    • メリット: 国民の決済利便性の向上、送金コストの削減、マネーロンダリングなどの不正防止、金融政策の有効性向上などが期待されています。
    • 課題: プライバシーの保護、情報セキュリティの確保、サイバー攻撃への対策、停電時や災害時でも使える仕組みの構築、そして、デジタル機器の利用が苦手な人々(デジタルデバイド)への配慮など、解決すべき課題も多く残されています。

世界中の国々が、この新しいお金の形をどう導入するか、あるいはしないかを真剣に議論しています。私たちの生活を大きく変える可能性のあるテーマとして、今後も注目していく必要がありそうですね。