1万円から始める「デジタル証券(STO)」とは?株や投資信託との違いを初心者にもわかりやすく解説
宇宙のどこかにある、何もかもがふわふわな惑星、ふわふわ星。今日の星は、いつもに増して穏やかな風が吹いています。ふわふわ星の王である「てち王」と、その妹「ちろ姫」は、お気に入りのニンジン畑でお茶を楽しんでいました。
ちろ姫:「にいちゃま!このニンジンスコーン、とっても美味しいでち!」
てち王:「うむ。朕(ちん)の特製だからな。味わって食べるのだぞ、ちろ姫。口の周りがクリームだらけではないか。」
ちろ姫:「ふぇへへ。だって美味しいんだもん!あ、見て!ノンビリ星のタートルしゃんが来たでち!」
ちろ姫がぴょんぴょんと跳ねながら指さす方を見ると、ゆっくり、しかし確かな足取りで、ノンビリ星の住人であるノンビリ・タートルさんがこちらへ向かってくるところでした。その甲羅のように固い意志で「貯金一筋」を貫いてきた彼が、てち王の元を訪れるのは珍しいことです。
てち王:「おお、タートル殿。これはこれは、ようこそおいでくださった。ささ、こちらのニンジン茶でもいかがかな?」
ノンビリ・タートル:「これは、てち王様。ご無沙汰しております。ちろ姫様もご機嫌麗しゅう。…実は、本日は王様にご相談したいことがありまして、甲羅を上げて馳せ参じました次第で…。」
てち王:「ほう、相談とな。朕でよければ何でも聞こう。して、その悩みとは?」
ノンビリ・タートル:「はぁ…。それが、最近よく耳にする『デジタル証券』なるものでして…。なんでも、1万ニンジン(円)という、私のような者でも始められそうな金額から投資ができると聞きましてな。しかし、名前からしてどうもよく分からず、株や投資信託と何が違うのか…。新しいものは怖ろしいという気持ちもあって、一歩が踏み出せずにいるのです。」
タートルさんの言葉に、ちろ姫がキラキラした目で割り込みます。
ちろ姫:「でじたるしょーけん!名前がカッチョイイでち!キラキラしてそうでちね!あたちも知りたい!」
てち王:「ふむ…なるほどな。タートル殿の堅実さに、ちろ姫の好奇心か。良い機会だ。二人とも、よく聞くがよい。今日は朕が、その『デジタル証券』の正体と、我々がよく知る株や投資信託との根本的な違いについて、分かりやすく解き明かしてやろう。」
デジタル証券とは?ブロックチェーンが繋ぐ新しい投資の形
てち王:「まず、タートル殿。株券というものはご存知かな?」
ノンビリ・タートル:「は、はい。会社の権利の一部を証明する紙、という認識でおります。」
てち王:「うむ。大まかにはそれで良い。では、その紙がもし、絶対に破れたり、偽造されたり、誰かに盗まれたりしない『魔法のデジタルノート』に記録されるとしたら、どう思うかな?」
ノンビリ・タートル:「なんと!それは…とても安心ですな。私の虎の子の貯金通帳も、ぜひそのノートに記録していただきたいくらいです。」
てち王:「ふふ、気持ちは分かる。その『魔法のデジタルノート』こそが、『ブロックチェーン』と呼ばれる技術なのだ。そして、その技術を使って、株券のような『価値ある権利』をデジタルデータにしたもの、それが『デジタル証券』、またの名を『セキュリティトークン』と言う。」
ちろ姫:「ぶろっくちぇーん!なんだか強そうな名前でち!コンコン・フォックスのイタズラも防げそうでちね!」
てち王:「その通りだ、ちろ姫。ブロックチェーンは、取引の記録を鎖(チェーン)のように繋げて、世界中のコンピューターで共有して監視しあう仕組みだ。だから、誰かがデータを改ざんしようとしても、すぐにバレてしまう。この高い安全性と透明性が、デジタル証券の根幹を支えているのだ。」
ノンビリ・タートル:「なるほど…。つまり、デジタル証券とは、ブロックチェーンという非常に安全な技術で管理された、電子的な権利の証明書、というようなものでしょうか。」
てち王:「見事な理解力だ、タートル殿。まさにその通り。そしてここからが重要な話なのだが…この『デジタル化』のおかげで、今まで我々が投資できなかったような、様々なものを権利として売買できるようになったのだ。」
株や投資信託との決定的違いと、1万円から投資できるワケ
ちろ姫:「今まで投資できなかったもの?大きなニンジンとかでちか?」
てち王:「良い質問だ、ちろ姫。例えば、都心に立つ大きなオフィスビルを想像してみるがよい。あのビル一棟を買うには、何億、何十億ニンジンも必要になる。我々には到底手が出せないな。」
ノンビリ・タートル:「夢のまた夢ですな…。せいぜい、自分の甲羅を磨くくらいでして。」
てち王:「だが、そのビルの所有権を、例えば1億個の小さなデジタルデータに分割して、『1口1万ニンジン』で売るとしたらどうだろうか?」
ノンビリ・タートル:「な、なんですと!?1万ニンジンで、あの大きなビルのオーナーの一人になれると!?そんな馬鹿な…。」
てち王:「それが、デジタル証券の最大の魅力なのだよ。不動産や美術品、未上場の会社の株など、これまでは高額すぎて個人では買えなかったり、そもそも売買の市場がなかったりした資産。これらを裏付けとしてデジタル証券を発行し、小口化することで、我々のような個人投資家でも1万円といった少額から投資できるようになったのだ。これを専門用語で『STO(Security Token Offering)』と言う。」
てち王は、ニンジン畑の土に枝で図を描きながら説明を続けます。
てち王:「これが、株や投資信託との根本的な違いだ。 株式投資は、上場している『企業』の所有権の一部を買うこと。 投資信託は、運用の専門家(ファンド)が色々な企業の株や債券をパッケージにして、その『商品』を買うこと。 そしてデジタル証券は、不動産やアートといった『特定の資産』の権利を小口で買うことができる、全く新しい選択肢なのだ。」
ノンビリ・タートル:「おお…!世界が広がりますな!貯金だけではインフレでニンジンの価値が目減りすると聞き、何かせねばと思っておりましたが…これなら、私にも始められるかもしれません。しかし、王様。良い話ばかりではないはず。何か、気をつけるべきことはないのでしょうか?」
てち王:「さすがはタートル殿。慎重な君のその姿勢こそ、投資において最も重要な資質だ。もちろん、デジタル証券にもリスクやデメリットは存在する。」
新たな可能性と心得るべきリスク
てち王:「第一に、『流動性の低さ』が挙げられる。」
ちろ姫:「りゅーどーせー?美味しいんでちか?」
てち王:「ははは。食べ物ではないぞ、ちろ。流動性とは『売りたい時にすぐに売れるか』ということだ。例えば、誰もが知っている大企業の株は、市場に買いたい人がたくさんいるから、いつでもすぐに売ってニンジンに換えることができる。しかし、デジタル証券はまだ新しい市場で、取引する人の数も少ない。だから、いざ売りたいと思っても、なかなか買い手が見つからない可能性があるのだ。例えるなら、どこでも売っている普通のニンジンと、特定の愛好家しか欲しがらない幻の『虹色ニンジン』くらいの違いがあるな。」
ノンビリ・タートル:「なるほど…。すぐにお金が必要になった時には、少し困るかもしれませんな。」
てち王:「うむ。第二に、『価格変動リスク』と『裏付け資産のリスク』だ。投資である以上、元本が保証されているわけではない。裏付けとなっている不動産の価値が下がれば、当然デジタル証券の価値も下がる。プロジェクトが計画通りに進まないリスクもある。」
ノンビリ・タートル:「やはり、投資は投資…。甘い話ではないということですな。」
てち王:「その通り。だが、リスクを正しく理解すれば、これほど面白い投資対象もない。今まで富裕層しかアクセスできなかった不動産投資の恩恵を、家賃収入のような形で定期的に分配金(インカムゲイン)として受け取ったり、将来的な価値の上昇(キャピタルゲイン)を狙ったりすることも夢ではないのだ。大切なのは、自分の資産の一部、まずは失っても生活に響かない範囲の『余裕資金』で試してみること。そして、発行している会社や、裏付けとなっている資産が本当に信頼できるものか、自分の目でしっかりと見極めることだ。」
てち王の丁寧な説明に、ノンビリ・タートルさんの顔から不安の色が消え、知的な探求心の色が浮かび上がってきました。
ノンビリ・タートル:「王様、よく分かりました。デジタル証券は、少額から大きな資産のオーナー気分を味わえる、夢のある仕組み。しかし、新しいが故にまだ市場が未熟で、売りたい時に売れないリスクもある…。まずは1万ニンジンから、信頼できるプロジェクトを探してみようと思います。これで私も、貯金一筋の甲羅から少しだけ顔を出せそうです。ありがとうございました。」
ちろ姫:「あたちも分かったでち!デジタル証券は、おっきなリンゴの木を丸ごと買うのは無理だけど、『この木のリンゴがなったら1個もらえる権利』をちょっとだけ買う、みたいなものでちね!その代わり、その年にリンゴがならなかったら、もらえないこともある!ってことでちょ?」
てち王:「おお、ちろ!その通りだ!なんと見事な例えだ!お前も少しはプリンセスらしくなってきたな。よし、褒美に特大のイチゴをやろう!」
ちろ姫:「わーい!にいちゃま、大好きでち!」
こうして、ふわふわ星の穏やかな午後は、新しい知識への扉が開かれた、記念すべき一日となったのでした。ノンビリ・タートルさんの投資家への第一歩と、ちろ姫の食いしん坊ぶりに、てち王は満足そうに微笑みながら、ゆっくりとニンジン茶をすするのでした。
用語解説
今回の物語で登場した、少し難しい金融用語を分かりやすく解説します。
- デジタル証券 / セキュリティトークン(ST)
ブロックチェーン技術を活用して発行されるデジタル化された有価証券のことです。不動産や未公開株、船舶、アートなど、様々な資産を裏付けとして発行され、株式や債券のように財産的な価値を持ちます。 - STO(Security Token Offering / セキュリティ・トークン・オファリング)
企業などが、デジタル証券(セキュリティトークン)を発行することで、投資家から資金を調達する方法です。従来の株式上場(IPO)とは異なる、新しい資金調達の形として注目されています。 - ブロックチェーン
取引の履歴(データ)を「ブロック」という単位で管理し、それを暗号技術で「チェーン(鎖)」のようにつなげていくことで、データの破壊や改ざんを極めて困難にする技術です。高い透明性と安全性を誇り、仮想通貨(暗号資産)の基盤技術としても知られています。 - 裏付資産
そのデジタル証券の価値を担保している、元となる資産のことです。例えば「Aビルのデジタル証券」であれば、裏付資産は「Aビルそのもの」となります。この裏付資産の価値が、デジタル証券の価格に大きく影響します。 - 流動性
金融商品の「換金のしやすさ」を指す言葉です。市場での取引が活発で、売りたい時にすぐに買い手が見つかる状態を「流動性が高い」、その逆を「流動性が低い」と言います。一般的に、新しい市場やニッチな商品は流動性が低くなる傾向があります。
-
前の記事
「インデックス投資だけで安心」は罠?S&P500・オルカンから一歩進む本当の分散投資戦略 2025.10.24
-
次の記事
【もう迷わない】30代夫婦のための新NISAとiDeCo使い分け術|教育資金と老後資金を両立する最適解 2025.10.24