新NISAとiDeCoどっちを優先?【20代・30代向け】5つの観点で違いを徹底比較

新NISAとiDeCoどっちを優先?【20代・30代向け】5つの観点で違いを徹底比較

宇宙のどこか、星々がきらめくビロードの絨毯に、ひときわ優しく輝く星がありました。その名は「ふわふわ星」。大地はマシュマロのように柔らかく、川にはイチゴミルクが流れ、そこに住むうさぎたちの毛並みと同じくらい、何もかもがふわふわな星です。

この星の通貨は、甘くて美味しい「ニンジン」。うさぎたちはニンジンを育て、ニンジンで買い物をし、将来のためにニンジンを蓄えるのでした。

そんな穏やかなある日の午後。ふわふわ星の広場が、何やら騒がしくなっています。

甘い言葉の罠

広場の中心に立っていたのは、コンコン星からやってきたきつね、その名もコンコン・フォックス。彼は派手な身振りと、うさんくさい笑顔で、純粋なうさぎたちに語りかけていました。

コンコン・フォックス: 「ふわふわ星の皆さん!もう古いやり方でニンジンを土の中に埋めておくだけの時代は終わりです!これからは『新NISA』!この素晴らしい制度を使えば、皆さんの大切なニンジンが、あっという間にニンジンの馬車にだってなるんですよ!」

集まったうさぎたちは「おおー!」と感嘆の声をあげます。その中に、生まれたばかりで好奇心旺盛な、ちろ姫の姿もありました。

ちろ姫: 「ニンジンのばしゃ!あたち、のりたい!ぴょんぴょん!」

ちろ姫がその場で飛び跳ねていると、コンコン・フォックスはさらに声を張り上げます。

コンコン・フォックス: 「よく聞いてください!巷では『iDeCo』なんていう制度も囁かれていますが、あれはダメです!60歳まで大事なニンジンを引き出せない、時代遅れの鉄の貯金箱!それに比べて新NISAは自由!いつでも引き出せる!さあ、皆さん、私の言う通りにすれば間違いありません!」

その言葉に、多くのうさぎが「コンコンさんの言う通りかも…」と頷き始めます。ちろ姫も、目をキラキラさせていました。

その時、広場に凛とした優しい声が響き渡ります。

てち王: 「待つのじゃ、コンコン・フォックス。その説明には、甘い蜜で獲物をおびき寄せる、狡猾な罠の匂いがするぞ。」

声の主は、ふわふわ星の若き王、てち王でした。彼の純白と茶色の毛並みは陽の光を浴びて輝き、その瞳はすべてを見通すかのように澄んでいます。妹のちろ姫が、ぴょんぴょんと駆け寄りました。

ちろ姫: 「おにいちゃま!ニンジンのばしゃ、つくってくれるの?」

てち王: 「ちろ姫。甘い言葉には必ず裏があるものじゃ。今から朕が、そのきつねの化けの皮を一枚ずつ剥がしていってやろう。皆もよく聞くのじゃ。これは君たちの未来のニンジンを守るための、大切な話じゃからな。」

てち王はちろ姫の頭を優しく撫でると、コンコン・フォックスをまっすぐに見据えました。こうして、ふわふわ星の広場を舞台にした、新NISAとiDeCoの真実を巡る物語の幕が上がったのです。

五つの観点から見る真実

てち王: 「コンコン・フォックスよ。お主は『iDeCoは引き出せないからダメ』と申したな。それは物事の一面しか見ておらぬ、浅はかな意見じゃ。そもそも、この二つの制度は目的が違うのじゃからな。」

【観点1:制度の目的】

コンコン・フォックス: 「も、目的だぁ?儲かれば何でもいいじゃないですか!」

てち王: 「それがいかんのだ。ちろ姫、よくお聞き。iDeCoは『老後の資金』を作ることに特化した、いわば未来の自分への最強の仕送り制度じゃ。だからこそ、原則60歳まで引き出せないという『縛り』がある。これは弱点ではなく、途中で誘惑に負けて使ってしまわないための、強制的な貯蓄を促す『長所』なのじゃよ。」

ちろ姫: 「みらいのあたちへのおやつ代なのね!じゃあ、NISAは?」

てち王: 「うむ。対して新NISAは、老後資金はもちろん、教育資金、住宅購入資金など、より幅広い目的のために使える自由度の高い制度じゃ。人生の様々な局面で必要になるニンジンを育てるための、万能な畑のようなものじゃな。目的が違うのだから、単純な優劣で語ること自体が間違っておる。」

てち王の分かりやすい説明に、うさぎたちが「なるほど…」と頷きます。顔色が悪くなるコンコン・フォックス。

コンコン・フォックス: 「し、しかし!税金がお得になるなら、どっちも同じでしょう!」

てち王: 「ほう、税の話をするか。ならば、そのお粗末な知識を朕が正してやろう。二つ目の観点は税制優遇じゃ。」

【観点2:税制優遇】

てち王: 「ちろ姫、お主がニンジンを100本稼いだとしよう。国に税として10本納めなければならない。手元に残るのは90本じゃ。これが基本じゃな。」

ちろ姫: 「えー!10本もとられちゃうの!?」

てち王: 「そうじゃ。だがiDeCoは違う。iDeCoのために積み立てたニンジン(掛金)は、その年の収入から『なかったこと』にできるのじゃ。これを所得控除という。例えば、100本稼いで10本をiDeCoに入れたら、『君は90本しか稼いでいないですよ』と国が認めてくれる。つまり、税金は90本に対してかかるから、納める税が減る。積み立てるだけで、今払う税金が安くなるのじゃ。」

ちろ姫: 「すごーい!おやつをがまんしてiDeCoにいれたら、税金のにんじんがもどってくるってこと!?」

てち王: 「その通りじゃ。そして、運用して増えた利益に税金がかからないのは、NISAもiDeCoも同じ。さらにiDeCoは、60歳になって受け取る時にも大きな税金の優遇がある。つまり、『入口(掛金)』、『運用中(利益)』、『出口(受取時)』の三段階で税制優遇がある。これを『最強の節税制度』と呼ぶ者もいるほどじゃ。」

コンコン・フォックス: 「ぐっ…!し、しかし新NISAだって運用益が非課税なのは同じ!しかも生涯にわたって使える枠が大きい!」

てち王: 「うむ。新NISAの生涯非課税限度額1,800万ニンジンは確かに強力じゃ。だが、『今』の税金を減らす効果はない。iDeCoの所得控除は、特に現役で働いている20代や30代にとっては、毎年確実に恩恵を受けられる、非常に大きなメリットなのじゃ。これを伝えないのは不誠実というものよ。」

てち王の指摘に、コンコン・フォックスはぐうの音も出ません。

てち王: 「さて、三つ目の観点は、お主が最初に指摘した資金の流動性じゃな。」

【観点3:資金の流動性】

てち王: 「先ほども言った通り、iDeCoは原則60歳まで引き出せない。これは老後のための資金を確実に守るための仕組みじゃ。対して新NISAは、いつでも好きな時に売却してニンジンを引き出すことができる。この違いは大きい。」

ちろ姫: 「あたち、急にすっごく高いりんごが食べたくなったら、NISAの畑からニンジンをぬっこればいいのね!」

てち王: 「そういうことじゃ。だから、10年後に自分のお店を持ちたいとか、子供が大学に行く時の資金にしたいとか、60歳より前に使う可能性があるお金は、新NISAで準備するのが向いておる。自分のライフプランに合わせて、流動性の違いを理解することが肝要じゃ。」

コンコン・フォックスは汗を拭っています。てち王は構わず続けました。

てち王: 「四つ目は、加入条件と上限額じゃ。」

【観点4:加入条件と上限額】

コンコン・フォックス: 「そ、それこそ新NISAの圧勝だ!誰でも年間360万ニンジンまで投資できる!それに比べてiDeCoはややこしい!」

てち王: 「ふむ。確かに新NISAは18歳以上の者なら、職業に関係なく同じ条件で利用できる。シンプルで分かりやすいのは美点じゃな。しかし、iDeCoが『ややこしい』のには理由があるのじゃ。」

てち王は広場のうさぎたちを見渡します。

てち王:iDeCoは、その者がどのような年金制度に加入しているかによって、積み立てられる上限額が変わる。自営業のうさぎ、会社員のうさぎ、専業主婦(主夫)のうさぎ…それぞれ立場が違う。iDeCoは、皆の公的年金を補うための『私的年金』制度じゃから、それぞれの立場に合わせて公平になるように設計されておるのじゃ。自分の上限額を一度調べてしまえば、何も難しいことはないぞ。」

ちろ姫: 「おにいちゃまは王様だから、いっぱいiDeCoできるの?」

てち王: 「はは、朕も国の制度に従うまでじゃ。大切なのは、自分の状況を把握すること。他人と同じである必要はないのじゃ。そして、最後の観点。運用商品の違いじゃ。」

【観点5:運用商品の違い】

コンコン・フォックス: 「へっ、どうせiDeCoなんて、地味で退屈な商品しかないんでしょう?新NISAなら、今話題のイケイケな個別株だって買えるんだ!」

てち王: 「それもまた、目的の違いに起因することじゃな。iDeCoで選べる商品は、金融機関が長期的な資産形成に適していると判断し、厳選した投資信託などが中心じゃ。いわば、栄養バランスを考えて作られた、王室御用達のコース料理のようなもの。大きな失敗をしにくいように配慮されておる。」

ちろ姫: 「あんしんごはん!」

てち王: 「うむ。一方で新NISAは、投資信託に加えて、個別企業の株式やETF(上場投資信託)など、非常に幅広い商品から選べる。これは自由度が高い反面、リスクの高い商品を選んでしまう可能性もあるということ。目利きが必要な、巨大な市場(マルシェ)のようなものじゃ。初心者がいきなり個別株に手を出すのは、毒キノコを採りに行くようなものかもしれんぞ。」

五つの観点からの説明を終えると、広場のうさぎたちは、先ほどまでのコンコン・フォックスへの熱狂が嘘のように、冷静にてち王の話に聞き入っていました。

若き世代への指針

ちろ姫: 「おにいちゃま、よくわかった!でも、結局あたちみたいな20代や30代のぴちぴちなうさぎは、どっちを先にやればいいの?」

それは、広場にいる若いうさぎたちが最も聞きたいことでした。皆が固唾を飲んでてち王を見つめます。てち王は、コンコン・フォックスに最後の視線を送りました。

てち王: 「コンコン・フォックスよ、お主ならどう答える?」

コンコン・フォックス: 「そ、それは…もちろん、自由なNISAに決まって…」

てち王: 「まだそんなことを言うか。良いか、皆の者。これは『どちらが優れているか』という戦いではない。『自分の状況に合わせて、どちらを優先すべきか、どう使い分けるか』という戦略の問題なのじゃ。」

てち王は一本指を立てました。

てち王: 「まず考えるべきは、iDeCoの所得控除の恩恵を受けられるか。収入があって税金を納めている者なら、ほぼ全員がこの恩恵を受けられる。毎年の税金が安くなるというのは、複利効果と同じくらい強力な武器になる。だから、まずはiDeCoで、無理のない範囲の掛金を始めることを朕は強く推奨する。これは未来の自分への、最も確実な投資じゃ。」

次に、二本目の指を立てます。

てち王: 「しかし、人生には何があるか分からん。10年後に自分の店を開くニンジンが必要になるかもしれんし、結婚して大きな巣穴を買うことになるかもしれん。そのような、60歳よりも前に使う可能性のあるお金は、流動性の高い新NISAで準備するのが賢明じゃ。」

そして、三本目の指。

てち王: 「結論として、20代・30代の理想的な戦略はこうじゃ。 ① まずはiDeCoの口座を開き、自分の上限額内で無理のない積立を始める(節税メリットを享受する)。 ② それと並行して、新NISAのつみたて投資枠で、コツコツと積立投資を行う。 ③ ボーナスなどの余裕資金ができた時に、新NISAの成長投資枠を活用する。 これが、守り(iDeCo)と攻め(新NISA)のバランスが取れた、最強の布陣じゃ。もし、どちらか一方しかできないというのなら、所得控除という唯一無二のメリットを持つiDeCoを優先的に検討する価値は十分にある、と朕は思うぞ。」

てち王の完璧な論理と、一人一人に寄り添った説明に、もはやコンコン・フォックスに反論の余地はありませんでした。

コンコン・フォックス: 「くっ…ふわふわしているからと侮っていたが、まさかこれほどの知識と王の威厳を持っているとは…!覚えてろー!」

コンコン・フォックスは捨て台詞を吐くと、尻尾を巻いてコンコン星へと逃げ帰っていきました。

未来のニンジンを育てるために

コンコン・フォックスが去った広場は、安堵と納得の空気に包まれていました。

ちろ姫: 「おにいちゃま、すごーい!あたち、わかった!iDeCoは『みらいのあたちのための、ぜったいこわれない貯金箱』で、NISAは『いろいろな夢をかなえるための、ふしぎな畑』なのね!」

てち王: 「うむ、ちろ姫は飲み込みが早いな。それで満点じゃ。」

てち王は優しく微笑むと、再び民のうさぎたちに向き直りました。

てち王: 「皆の者、今日の話を忘れるでないぞ。甘い言葉に惑わされず、制度を正しく理解し、自分の未来のために賢い選択をすることが大切じゃ。最も重要な投資は、いつだって自分自身の知識への投資じゃからな。」

王の言葉に、うさぎたちは深く頷き、自分たちの未来のニンジンをどう育てていくか、希望に胸を膨らませるのでした。ふわふわ星の空は、どこまでも青く澄み渡っていました。


用語解説

最後に、物語に出てきた重要な金融用語を少しだけ解説します。

  • 新NISA:
    2024年から始まった新しいNISA(少額投資非課税制度)のこと。年間最大360万円まで投資が可能で、生涯にわたって1,800万円までの投資から得られる利益(値上がり益や配当金など)が非課税になる制度です。いつでも引き出し可能で、自由度の高さが魅力です。
  • iDeCo (イデコ):
    個人型確定拠出年金の愛称。自分で掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで、老後のための資金を準備する私的年金制度です。掛金が全額所得控除になる、運用益が非課税、受け取る時にも税制優遇があるという「3つの税制優遇」が最大の特長。原則60歳まで引き出せません。
  • 所得控除:
    税金を計算する元となる「所得」から、一定の金額を差し引くことができる仕組み。iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象となるため、課税対象の所得が減り、結果として所得税や住民税が安くなります。
  • 投資信託:
    投資家から集めたお金を一つの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する金融商品。iDeCoやNISAで手軽に国際的な分散投資を始めることができます。
  • ETF (上場投資信託):
    証券取引所に上場している投資信託のこと。株式と同じように、取引所の開いている時間内にリアルタイムで売買できるのが特徴です。

制度を正しく理解して、ご自身のライフプランに合った資産形成を始めてみてくださいね。